ガスクラスターイオンビーム(GCIB)応用装置
GCIB (ガスクラスターイオンビーム)装置の概要
1-1 GCIBの原理
GCIB技術は,数十~数万個の気体原子のクラスターをイオン化し、30kV程度の適度なエネルギーに加速して,加工物に照射する技術で,京都大学名誉教授山田公氏のグループを中心に研究開発された日本のオリジナリティーの高い技術です(図1、2を参照)。
1-2 GCIBの効果
GCIBは、主に半導体プロセスとして、低エネルギーイオン注入や、高品位成膜、表面平滑化などの分野で発展してきしました。特に資料表面を極めて平滑化するのには他の方法では見られない威力を発揮します。最近では、微細構造物の表面平滑化、医療材料の表面改質の分野で応用が進んでいます(図3−5を参照) [1]。
図3. 横方向スパッタリングによるダイヤモンド薄膜の表面平滑化
図4. SF6-GCIBの斜照射による平滑化の効果[1]
図5. SF6-GCIBの斜照射時の凹凸粗さの照射量依存性[1]
最近、GCIBは携帯電話や小型電子カメラ等に用いられる小型の非球面レンズの生産に必要な高精度金型への応用が進んでいます。図6はプラスチックレンズ用金型(Ni)に、図7はガラスレンズ用金型(WC(タングステンカーバイト))応用した例です。GCIB処理により、表面のRa(平均粗さ)の値が大きく減少しています[1]。
図6 プラスチックレンズ金型(Ni)表面のGCIB処理前後のAFM像。(Ar-GCIB,加速電圧:20kV)[1]
図7. ガラスレンズ金型(WC)表面のGCIB処理前後AFM像。
(a),(c)照射前、(d),(e)照射後。(Ar-GCIB,加速電圧:20kV)[1]
1-3 GCIB加工装置
図8にGCIB装置の概略を示します。ガスクラスターに用いられるガスは、通常数気圧に加圧した特殊なノズルから減圧された空間に放出させます。ガスはノズル内でクラスター化され、スキマーにより整形されて、ビームとして取り出されます。中性のクラスタービームは、イオン化部で電子衝撃によりイオン化され、加速電極により適当なエネルギーを与えられて、被加工物に照射されます。実際のGCIB加工装置では必要に応じてチャージアップを防ぐためのニュートラライザ―や単原子イオンを除去するための装置が取り付けられています[2]。
図8. GCIB加工装置の概略図[2]
参考文献
[1]潟岡泉、山田公 ; “GCIB 技術の光学分野への応用”、光技術コンタクト , 51, 2, pp.31-38 (2013)。
[2]豊田紀章、山田公 “ガスクラスタービームによる超精密加工”、精密工学会誌、 82, 4, pp.315 315, (2016) 。